第144回研究会のご報告

第144回研究会は、2018年1月20日、日刊工業新聞社大阪支社ビル10階A会議室で、「IT関連技術とベンチャー」というテーマで開催されました。基調講演は株式会社計数技研代表取締役社長の早石直広様、講演のタイトルは「これから始めるAIビジネスの基礎知識」でした。早石様はロボットの開発や海外を含む数社の技術顧問、大学での授業、AI等のセミナー、など、IT関連技術のグローバルな研究者であり技術者、経営者ですが、本テーマの基調講演者としても最高の方でした。今回は、AI(人工知能)って何?、そもそも「知能」とは?ルールベースの人工知能の限界、機械学習へ、機械学習による識別と従来型の限界、Deep Learningへ(これも機械学習)、そのメカニズム、最新のDeep Learningで可能なこと、その問題点、最新モデルであるGANの紹介、GANの派生技術、画像生成能力、最後に書籍紹介、など、AIに関係した重要な知識について、日頃は6時間~数十時間もかけて話されるところを短時間で、しかもAIについて聞くのは初めてという人にもわかるように易しくという当方の注文に最大限に応えて頂き、グループ・ディスカッションと懇親会にも出ていただき、われわれ参加者にとって、AI学習のまたとない機会になりました。

 第2報告者は、株式会社シビルオ共同代表の上浦伸也様です。上浦様は大学院在籍中にIT系のベンチャーを立ち上げ、大学院を終了した後、その会社は売却されましたが、2016年に、上記の会社を立ち上げ、順調に経営中です。講演では、学生時代からAI系のベンチャー企業を立ち上げるまでの背景と取り組みのプロセスについて話されました。また、この業界に特有の悩みや開発業務の実際、現在の思い、今後の展望、などについて語られました。事例では、アミューズメント施設の利益向上や、人材教育といった業務改善的なものから、男前判定といったエンターテイメント的なものなど、若い経営者だけに柔軟でユニークな取り組みをされている点が印象的でした。導入コストが高いことや、高度なニーズに対してはスケール化が難しいこと、など、経営上の課題は多々あるものの、試行錯誤を重ねつつ、今後も着実に成長していかれる、大きな発展が期待できる、そんな印象を覚えた発表でした。関西発のAIベンチャー企業として、是非、成功されますよう、祈念し、応援したいと思います。

 第3報告者は、株式会社適正地盤構造設計一般建築士事務所の代表取締役の大山雅充様です。講演のタイトルは「「『工事の見える化』現場を可視化!~改ざんさせない効率化工事管理システム~建設業をITで変えるベンチャー企業の将来展望」でした。現在日本の建設業は、海外からは大変高い評価を受けている優良業界だそうですが、工事現場はそうでもない。とくに可視化が遅れている、全くできていないことが大きな問題である。目に見えないところで平気で改ざんが行なわれている。こんな現状に大山さんは強い危機感を覚えて、IoTを利用して、工事管理システムとしての「工事の見える化」を開発されました。これを使って、わが国建設業の工事現場を可視化し、業界の体質を刷新していきたい、そして住の安全と安心を実現していきたい、そんな社会正義の思いを熱く語られました。残念ながら、業界の壁は厚く、大山様の「工事の見える化」は、現在のところ、広く浸透していくことは至難の業のようです。そこでこれを突破していくにはどうすればよいか、第2部のディスカッションでは、同志を募る目的で「協会」のような組織をつくってみてはどうか、とか、他の業界(農業や花屋さん)で実施され、成果を得ている「可視化」の成功事例を援用して、「工事の見える化」の導入を渋る建設業界の経営者たちを説得していってはどうか、など、いろいろなアイデアが出され、議論は大いに盛り上がりました。

 以上のとうり、「IT関連技術とベンチャー」という、比較的、参入障壁の高いテーマで開いた研究会でありましたが、素晴らしい講演者の発表と目的意識を持った参加者(今回は57人)の皆様の協力のお陰で、十分に満足できる、参加価値の高い研究会として開催できたのではないかと、そう推察しました。もちろん、今後も継続すべき重要なテーマであると感じました。

 事前申込者から判断して、いつもより多い目に準備した冊子(55冊)も不足するという嬉しい誤算で、研究会としては過去最高でした。講演者と参加下さった皆様に、改めてお礼申し上げます。